この前clubhouseというSNSでご質問いただいた内容に明確にお答えできず、持ち帰り調べさせていただきました。中毒や誤飲などよく対応しますがアルコールに関しては経験がなかったためリスクはあると知ってはいましたが、どの程度のリスクがあるのか詳細を回答できなかったため解説してみます。
【犬はアルコールが分解できない】
人間はアルコールを飲むと、肝臓のアルコール脱水素酵素によって分解され、アセトアルデヒトに変化します。このアセトアルデヒドをさらにアセトアルデヒド脱水素酵素が分解し、最終的に水と酸素へと無害化されます。
しかし犬にはこうした機能が備わっておらず、長時間アルコールの成分が体内にとどまっている状態になり、少量のアルコールでも酔っぱらった状態になってしまうのです。分解されないっていうのは、一回飲んだら一生アルコールが体内から排出されないかというとそんな事はありません。分解されないまま尿、汗、呼気として体外へ排出されます。アルコール分解の主役である肝臓での解毒ができないし、犬猫はそこまで汗をかかないため排出が非常に遅いという事です。
【どれくらい飲むと危険なの?】
犬のアルコール致死量は体重1㎏につき5.6mlだそうです。アルコールの度数別に致死量を比較するとアルコール度数5%のビールで110ml、アルコール度数15%の日本酒で37ml、アルコール度数40%の日本酒で14mlです。
こう書いてあるネット記事が多かったです。ただこのような致死量を示した論文は見つけれませんでした。参考になりそうな論文はありましたので紹介します。
【5匹の実験犬にカロリーの36%をエチルアルコールとして1年間与え脳への影響を評価した】という論文です。カロリーの36%は計算するとビール100ml程度に相当しました。ネットで紹介されてる致死量はビールで110mlだったのでギリギリラインを1年間与え続けたという事になります。
正直な感想は、そもそも1年間与え続ける実験って事は意外と死なないじゃんと思いました。結果は難しく書くと(後で一言にまとめます)側脳室の拡大、側頭葉皮質の菲薄化、および側頭皮質と前頭皮質のグリア細胞の減少を示し。脳重量、前頭葉または頭頂葉の皮質の厚さ、新皮質ニューロンの集団においては統計的に有意差はありませんでした。
要は
人のアルコール依存症と同じ脳の変化が出てアル中になってしまったという事です。死にはしませんがやっぱりやばい量だということがわかりました。実験犬の5匹ありがとう。
【まとめ。日常の危険性】
これは実験で量をコントロールしていますが、日常生活では不注意で摂取してしまうケースがほとんどだと思います。上記の量で死なないけど危険な量である事は間違いなさそうなので、実験のアルコール量はビールだと100ml程度でした。アルコール度数の高い日本酒の場合は14mlが危険量とするとおちょこ一杯が18ml入るので小型犬では一口舐めるのが、一撃必殺の可能性もやはりあります。ですのでわざと犬猫にアルコール摂取させるのはもってのほかですが、人がアルコール度数の高いお酒をたしなむ場合は舐めないように注意をしておく必要がありそうです。
【追加】
塗り薬などに含まれる少量のアルコールに関しては危険性は少ないと思います。皮膚吸収自体がそもそもあまりされない事。されたとしても危険量に達する可能性が少ない事。吸収されても肝臓以外の排出経路は弱いながらも存在する事。手術の際にイソジン、アルコール消毒の時に多くの量を使用するが問題となった経験がない事。以上の事より経験上も理論上も中毒にはならないと思います。塗り薬などに含まれる分まで過度に気にする必要はなさそうで、有効に使用しましょう。
右よ〜し、左よ〜し。うん。周りに誰もいないな。患者さんから焼酎頂いちゃったので今日は呑むぞ〜!笑